一匹の蚊

部屋の中を一匹の蚊が飛んでいる。何日か前からいる。ときどき体の近くまで寄ってくる。手で払う。居住空間を分けようと思い、蚊を部屋の隅へと詰め寄りながらドアを開ける。隣の部屋に入ったらドアを閉める。これで一息つくことができる。

出かけてから帰ってくると元通り7畳のリビングを蚊が飛んでいる。ときどき視界に入ってくる。耳元で蚊の音を聞かせてきたときに殺意がめばえた。少し強めに手で払う。恐らく今までにない衝撃が伝わったことだろう。またどこかへ飛んでいく。

ある日の昼間、もう完全に排除したいと思い、洗濯物を干したタイミングで窓を開けたままにして、団扇で蚊を誘導した。なかなか出て行かなかったが、次第に窓へ近づきカーテンを掠めて外の空間に消えていった。

蚊のいなくなった空間でこの文章を書いていると、目の前をまた別の蚊が横切った。