階段の記憶

今のアパートに住み始めて4年近くになる。3階建ての最上階の部屋なので、毎日のように階段を使う。3階の廊下には屋根がないため、雨が降ったり雪が積もると、踊り場にさしかかる時に注意がいる。そんな微妙なニュアンスが、毎日の上り下りで身体に染み付いている。

同じ昇降運動でも、どんな階段かによって身体の対応は変ってくる。そして、何よりその対応の変化を身体自身が覚えている。階段の記憶を残している。

幼い頃は、祖母の家の2階にある叔母の部屋で遊んだりした。古い家屋に特有の、狭くて急勾配な階段。となりのトトロに出てくる、あの階段を思い浮かべてもらえれば、イメージとしては間違いない。登るときは、スネをぶつけないようになるべく腿を垂直に上げる。降りるときは、前に転げないように体重をやや後ろにかける。木の肌触り、漆喰の壁。近頃は、祖母の家にあがっても、その階段を見上げることもない。ましてや、のぼりなど。それでも、こうやって思い出すことで、足の動きや身体バランス、壁との距離感、身体に残る階段の記憶を探り当てることができる。

学校の階段、駅のホームに続く階段、神社の境内、友達の家。至るところにそれは埋まっている。